犬をベジタリアンにするなら大豆肉を使えばいい、という考え方は危険
愛犬の食事内容をベジタリアンやヴィーガンにする飼い主さんが、欧米を中心に増えつつあります。犬は雑食動物であり、植物性の食材のみでも必要な栄養素を摂取することは理論上可能です。
ただし、そこには動物栄養士による厳格な栄養管理が必要。なぜなら中途半端な情報のみでベジタリアン食を実践すると、大切な愛犬の健康を損ねることになるからです。
目次
犬の食事に大豆ミートを使うとアルギニンが不足するかもしれない
市販品の大豆ミートには、乳化剤や保存料などの添加物が使われているものが多くみられます。だからこそ大豆ミートは手作りする!という飼い主さんもいらっしゃることでしょう。最も簡単に作れるのは豆腐を使った大豆ミートです。しかし、豆腐で作った大豆ミートでは、犬の必須アミノ酸「アルギニン」が不足するかもしれません。
◆犬の必須アミノ酸
①イソロイシン ②ロイシン ③バリン ④リジン ⑤メチオニン ⑥フェニルアラニン ⑦スレオニン ⑧トリプトファン ⑨ヒスチジン ⑩アルギニン
犬は上記10種類のアミノ酸を体内で合成できず、食事から摂取しなければなりません。大豆には犬の必須アミノ酸が含まれていますが、アルギニンの大部分は大豆の皮部分に存在。そのため、豆腐を原材料にした大豆ミートでは皮部分が含まれず、アルギニンが不足しやすいのです。
では、添加物が使われていない市販品ならどうかと言えば、こちらも問題あり。市販品の大豆ミートの多くは大豆の皮を取り除いた脱皮処理がされており、こちらも豆腐同様にアルギニン不足が懸念されます。
大豆の皮部分までまるごと使った大豆ミートもありますが、こちらも手放しでOKというわけにはいかないのが難しいところ。と言うのも大豆の皮部分は消化がしにくく、犬の胃腸に負担をかける可能性が懸念されるからです。
健康のために大豆ミートを食べさせたいのに、消化不良による下痢の原因になってしまったら、本末転倒もいいところ。市販品の中には大豆をまるごと使い、皮部分は発酵によって柔らかくしたものもありますが、手間がかかっている分価格が高くなり、日常使いには悩ましいところです。
必須アミノ酸は全種類をバランス良く摂取しないと体内効率が悪い
ところで、アルギニン1つ足りなくても他の9種類が足りていれば問題なさそう、と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。必須アミノ酸は1種類でも量が足りないと、体内での正常なタンパク質合成に大きく影響します。
その理由はアミノ酸が体内で利用されるにあたり、最も少ない量の必須アミノ酸を基準にして、他のアミノ酸の利用効率が決定されるからです。
犬の必須アミノ酸10種類のうち、9種類が豊富に含まれていても1種類が少なければ、多く含まれている9種類も最低量の1種類に見合った量しか体内で利用されません。つまり、必須アミノ酸を摂取するにあたって最も重要なのは、すべての種類がバランス良く含まれていることなのです。
そして犬の必須アミノ酸10種類が最もバランス良く含まれている食材は動物性の肉類。だからこそ、大豆肉(大豆ミート)はアルギニンが必須アミノ酸ではない人間にとっては良いタンパク源でも、犬の食事においては肉類の代わりにならないのです。
この部分を無視して愛犬の食事をベジタリアンにすれば、いずれ栄養不足による体調不良を招くことになるでしょう。
犬にとって肉類は必須アミノ酸をバランス良く含んだ最良のタンパク源
大豆ミートを使うとアルギニンが足りないなら、アルギニンは別の食材やサプリメントで摂取させればいい、という考え方もあるでしょう。ではアルギニンを多く含む食材は何かといえば、その多くは牛・豚・鶏などの肉類や魚肉・卵といった動物性。
植物性は全粒大豆やナッツ類など、犬の食事においてメインの食材にするにはかなり無理があるものばかりです。サプリメントでアルギニンを補うにしても、食材との栄養バランスが重要。どの程度摂取させればいいか、考えれば考えるほど難しくなる一方ではないでしょうか。
そもそも、犬は雑食動物とはいっても胃腸の作りは肉食獣寄りの動物。動物性タンパク質に食物アレルギーがある、あるいはダイエットのために総カロリーを制限する必要あり、といった事情がある場合は別として、基本的に犬にとって最も良質なタンパク源は肉類です。
犬は私たち人間が選んだものしか食べることを許されていません。だからこそ、「ベジタリアンは体に良い」という一面だけを切り取った情報に踊らされるべきではないのです。
犬のベジタリアン食についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
>『犬の食事をベジタリアンにすると、栄養は摂取できても満足度が低い』
今後の愛犬の健康にお役立て頂ければ幸いです。
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