【犬の血液検査の見方③】生化学検査
犬の血液検査の中で、ある意味最も飼い主さんを不安にさせるのは、生化学検査の結果ではないでしょうか。なぜなら生化学検査の項目は、特定の臓器や器官の状態を知るためのものだからです。
「腎機能が衰えている」「肝機能に問題がある」といったように、愛犬の体のどこに不調が起きているのかを具体的にイメージしやすいですよね。
とはいえ、体はそれぞれの臓器が密接に関係して機能しています。正常値から外れた項目だけですべてを判断してしまうと、体からの重要なメッセージを見逃してしまうかもしれません。
正常値内の項目も含め、一つ一つを丁寧に確認していくことが、愛犬の体調管理に役立つのではないでしょうか。
目次
生化学検査|体の栄養状態を知るための項目
血液中に含まれているタンパク質により、犬の体の栄養状態がどの程度なのかを調べる項目です。
総蛋白(TP)
血液中に含まれているタンパク質の総量を測定した数値です。とはいえ、総蛋白の数値だけで体の栄養状態を判断するわけではありません。
実際には総蛋白・アルブミン・グロブリンの3項目を総合的に見ていくことで、詳細な体の栄養状態を把握することが可能となります。
正常値より少ない → 食事内容が慢性的に低栄養、あるいは肝臓・腎臓・消化器などの問題が疑われる。
正常値より多い → 脱水により血液が濃縮している、あるいは肝臓・腎臓の問題が疑われる。
アルブミン(Alb)
血液中に含まれるタンパク質の約60%を占めており、他の血清タンパクより分子量が小さいことが特徴です。主に血液の浸透圧調整と栄養・水分などの保持と運搬を担っています。
正常値より少ない → 肝臓・腎臓・消化器などの異常が疑われる。
正常値より多い → 脱水により血液が濃縮している疑いあり。
生化学検査|免疫に関する項目
免疫機能が正常に働いているかを調査するための項目です。
グロブリン(Glob)
血液中に含まれている2番目に多いタンパク質です。
正常値より少ない → 免疫異常の疑いあり。
正常値より多い → 脱水・慢性的な炎症・腫瘍などが疑われる。
アルブミン / グロブリン比
アルブミンとグロブリンの比を算出した数値です。健康な状態ではグロブリンよりアルブミンが多くなりますが、肝臓に異常があるとアルブミンよりグロブリンが多くなります。
アルブミンの低下で正常値より低い → 栄養障害・肝疾患が疑われる。
グロブリンの上昇で正常値より低い → 骨髄異常・感染症・腫瘍などが疑われる。
グロブリンの低下で正常値より高い → 免疫不全の疑いあり。
生化学検査|炎症に関する項目
体内のどこかで炎症が起きていないかを調べるための項目です。
C反応性タンパク
C反応性タンパクとは、急性相タンパクの一種です。なんらかの原因によって炎症や組織の破壊が起こった場合、6時間頃からこの数値が急激に増加しはじめ、24時間程度で最高値に達すると考えられています。
正常値より高い → 感染症・免疫介在性疾患・腫瘍性疾患といった全身性の炎症反応がどの程度なのかを判断するための重要な項目。
生化学検査|肝臓と胆道に関する項目
肝臓と胆道(肝臓から十二指腸までの通り道)に異常が起きていないかを調べるための項目です。
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
肝臓や胆管に含まれているアミノ酸合成に欠かせない酵素のため、主に肝臓のダメージ度合いの指標となる数値です。
なんらかの原因で肝細胞が破壊されるとALTが血液中に漏れ出し、正常値より数値が上昇します。
正常値より低い → 肝不全の疑いあり。
正常値より高い → 肝機能障害・低酸素症などの疑いあり。
アルカリホスファターゼ(ALP)
主に胆道系の疾患(胆汁鬱滞や胆管肝炎など)で数値が上昇する肝酵素のことです。この数値は基本的に低値は問題視されません。
正常値より高い → 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)・肝機能障害・骨腫瘍・糖尿病・薬の副作用などが疑われる。
ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)
主に胆道系の疾患(胆汁鬱滞や胆管肝炎など)で数値が上昇する肝酵素のことです。ALPと同様に、GGTも基本的に低値は問題視されません。
正常値より高い → 肝機能障害・胆汁鬱滞(うったい)・胆管肝炎などが疑われる。
総ビリルビン(Tbil)
赤血球中のヘモグロビンの代謝によって生じる代謝産物です。この数値も基本的に低値は問題視されません。
正常値より高い → 胆道系疾患・胆管閉塞・溶血性疾患などが疑われる。
アンモニア(NH3)
肝臓の状態を調べる酵素系以外の項目です。アンモニアは毒性のある物質のため、低値は問題視されません。
正常値より高い → 肝機能障害・門脈シャントの疑いあり。
生化学検査|腎臓に関する項目
腎臓が正常に機能しているかを調べるための項目です。
尿素窒素(BUN)
腎臓から排泄される代謝産物です。腎臓のダメージ度合いの指標となる数値として知られていますが、腎臓に余剰能力がある程度残っていると早期の診断が難しいため、この数値だけで判断することはありません。
正常値より低い → 肝不全・食事のタンパク質不足・多飲多尿・門脈シャントの疑いあり。
正常値より高い → 腎機能低下・尿毒症・尿路閉鎖・消化管出血・脱水などの疑いあり。
クレアチニン(Cre)
腎臓から排泄される代謝産物です。腎臓のダメージ度合いの指標となる数値として知られていますが、BUNと同様に腎臓に余剰能力がある程度残っていると早期の診断が難しいため、この数値だけで判断することはありません。
また、低値は基本的に問題視されない項目です。
正常値より高い → 腎機能障害・腎不全・尿毒症・尿路閉鎖などの疑いあり。
IDEXX SDMA
腎臓の糸球体濾過量(GFR)を調べるための新しい検査項目で、尿素窒素やクレアチニンなどより早期発見が可能な項目です。この数値も低値は問題視されません。
正常値より高い → 腎機能低下・腎臓病の疑いあり。
BUN / クレアチニン比
尿素窒素とクレアチニンの比を算出した数値です。
正常値より低い → 肝不全が疑われる。
正常値より高い → 腎機能低下・腎疾患・脱水が疑われる。
生化学検査|脂質異常に関する項目
血液中に含まれている脂質の量を調べる項目です。
総コレステロール(Tcho)
主要脂質成分のコレステロール濃度を調べる項目です。
正常値より少ない → 肝疾患・肝不全の疑いあり。
正常値より多い → 甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症・副腎皮質機能亢進症・胆管閉塞・糖尿病などが疑われる。
中性脂肪/トリグリセライド(TG)
トリグリセリドあるいはトリグリセライドと呼ばれる中性脂肪は、犬の血液検査ではあまり重視されず補助的な項目として使われます。
また、食事内容によってかなり結果が左右されるため、絶食後に測定するのが望ましいとされている項目です。
正常値より少ない → 肝機能障害・肝不全の疑いあり。
正常値より多い → 甲状腺機能亢進症・副腎皮質機能亢進症・糖尿病の疑いあり
生化学検査|糖質に関する項目
血液中に含まれている糖質の数値を調べる項目です。
グルコース(Glu)
血液中に含まれているブドウ糖の量を調べている項目で、簡単にいえば血糖値のことです。
正常値より少ない → 肝不全・門脈シャント・低血糖・腫瘍・アジソン病などの疑いあり。
正常値より多い → 糖尿病・強いストレス・副腎皮質機能亢進症の疑いあり。
生化学検査|膵臓に関する項目
膵臓が正常に機能しているかを調べるための項目です。
アミラーゼ(Amy)
主に膵臓から分泌される消化酵素です。この数値は基本的に低値は問題視されません。
正常値より多い → 膵臓疾患・腸閉塞などの疑いあり。
リパーゼ(Lip)
主に膵臓から分泌される消化酵素です。この数値はアミラーゼと同様に基本的に低値は問題視されません。
正常値より多い → 膵臓疾患・外傷などの疑いあり。
生化学検査|心臓に関する項目
心臓から分泌された血液中のホルモンを調べる項目です。
脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)
心室に負担がかかった時に心筋細胞から分泌されるホルモンを測定する、心臓の特殊検査項目です。
心不全の重症度合いを調べたり、冠動脈疾患を早期発見するために使われます。
まだ一般的とはいえませんが、小型犬種に多い僧帽弁閉鎖不全症や大型犬種に多い拡張型心筋症などの兆候をいちはやく掴むために、もっと全国的に浸透してほしい検査項目といえるでしょう。
生化学検査|骨・筋肉に関する項目
血液中の電解質やミネラル類の量を測定し、骨や筋肉の状態を調べるための項目です。
カルシウム(Ca)
血液中に含まれているカルシウムの多くはアルブミンと結合しています。
そのため、低タンパク血漿の犬のカルシウム濃度は低く測定されてしまうことから、見かけの数値ではなくアルブミン値を考慮した補正カルシウム値を算出することになります。
正常値より低い → 急性膵炎・低アルブミン血症・ビタミンD欠乏症・上皮小体機能低下症・腎疾患などが疑われる。
正常値より高い → 腎不全・上皮小体機能亢進症・リンパ腫・アジソン病などが疑われる。
無機リン(P)
血液中のリンはカルシウムのようにアルブミンと結合しているのではなく、イオン化していることから「リン」ではなく「無機リン」と表記されます。
正常値より低い → 上皮小体機能亢進症・栄養不足・くる病・腎疾患などの疑いあり。
正常値より高い → 腎疾患・上皮小体機能低下症・副甲状腺機能低下症などの疑いあり。
ナトリウム(Na)
体内の血圧維持や水分量の調整が正常に機能しているかを調べる項目です。
正常値より低い → ネフローゼ症候群・心不全・アジソン病・水分過剰などが疑われる。
正常値より高い → 糖尿病・水分不足・腎障害などが疑われる。
カリウム(K)
細胞の浸透圧が正常に機能しているかを調べる項目です。
正常値より低い → 嘔吐・下痢・腎疾患などが疑われる。
正常値より高い → 溶血・腎障害・高血糖などが疑われる。
犬の血液検査の見方を知って愛犬の健康管理に役立てよう
犬の血液検査の結果をつぶさに見ていくと、どうしても「正常値より低い場合は〇〇病の可能性あり」「正常値より高い場合は〇〇病が疑われる」といった物騒な文言ばかりが気にかかりますよね。
血液検査によって判明した数値は、あくまでも体調不良を引き起こした原因を突き止めるための参考ツールのようなものです。数値が正常値から外れているから即病気――と判断するわけではありません。
毎年定期的に血液検査を受けていると、だんだん愛犬の体質が見えてくるものです。
重ねて申し上げますが、血液検査の結果は数値を見て一喜一憂するようなものではなく、今現在の愛犬の体の中身を知ることで、この先の健康管理をどのように組み立てていくかの指標とすべきものです。
血球検査の血球検査と赤血球の項目についてはこちらの記事でも詳しく説明しています。
血球検査の白血球と血小板の項目についてはこちらの記事でも詳しく説明しています。
今後の愛犬の健康にお役立て頂ければ幸いです。
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